『ミッテランの帽子』で80年代のパリに小旅行ー人生を変える魔法の帽子

『ミッテランの帽子』で80年代のパリに小旅行ー人生を変える魔法の帽子

帽子をかぶるようになってからというもの、それが存在するだけで、日常の心配ごとから開放された


舞台は1980年代のパリ。

選挙で負けてしまったフランソワ・ミッテラン大統領がブラッスリーに置き忘れた帽子。これが旅をして手にした人たちの運命を好転させていくという、大人のためのおとぎ話です。

家族が出かけた一人きりの夜。いつもは行かない少し上等なブラッスリーでプイィ・フュイッセとシーフードプレートを食べていたダニエル。隣のテーブルを見るとミッテラン大統領一行が食事をしている。それだけでも大事件なのに、大統領は黒いフェルト帽をお店に忘れていきます。

F.M.と金の刺繍の入ったその帽子を手にしてから、ダニエルの人生は大きく好転していきます。


その後、帽子はまるでひとりでに旅をするように、何人かの手にわたります。

香りを作れなくなった調香師とその妻のコンサートピアニスト。
売れない作家と愛人。
上流階級の晩餐会に辟易する元貴族。

それぞれ悩みを抱えた個性的な登場人物たちの人生が、帽子を介して少しずつ重なっていきます。

そして持ち主のミッテラン大統領自身も、無くした帽子を取り戻すために動いていました。

 

作者は映画のシナリオを書いていた方だけあって、どんどん映像が浮かんできてあっと言う前に読み終えてしまいました。

1986年といえは、インターネットも携帯電話もなく、新聞の広告欄を通じて連絡を取るような時代。若い人はピンとこないかもしれませんが、ベルリンの壁が崩壊するのが1989年ですから、まだまだ東西冷戦時代です。

30年以上前のことなので、もう歴史の教科書に載っているかもしれませんが、フランソワ・ミッテランは社会党のリーダーとして、1981年から二期14年間フランスの大統領を務めました。社会主義というと敬遠する人もいるかもしれませんが、「有給休暇の拡大」、「法定労働時間の削減」、「年金の充実」など働く私たちにとって有益な政策を行っています。また、ドイツのコール首相と共に欧州統合を導きました。パリの観光名所となっているオルセー美術館のオープンやルーブル美術館の入り口にピラミッド(当初は大ブーイングだった)が設置されたのもミッテラン大統領の時代です。

その後の時代へとつながる象徴のように、バスキアの作品が登場します。アンディ・ウォーホルに評価されて脚光を浴びましたが、若くして命を落としたNYの天才画家です。ZOZOの前澤さんが123億円で作品を落札したことで日本でも話題になりましたね。

 

 

【おすすめポイント】

パリが好き、美味しいものが好き、アートや音楽が好き、政治に興味がある、香りや調香師に興味があるひとつでも当てはまるなら読む価値ありです。特に調香に関する描写は美しくて、うっとりとする香りが漂ってくるようでした。

 

何でもかんでも効率化、スピード化を求められる今とは違い、時間の流れもゆったりとしていて、ほっとします。

 

コメントは受け付けていません。